<前回までのあらすじ>
「真のファッションノウハウを確立すべく、持っている服を全部燃やし、全裸から出直す!」
そう宣言した水野。そして彼は全ての衣服をゴミ袋につめて、家を飛び立った。
AM3:00。
服を全て車に詰め込み、目的地に向かっている私は、色々なことを考えていた。
昔から、こんなだったな――。
中学3年の時。
古文の授業中に頭に紙袋をかぶり、全裸で登場してパーマンの曲を最初から最後まで歌いきれるかどうか、また、その時、古文の教師である「直(チョク)」は私のことをパーマンだと思い込むかどうか、という実験を行うことになった。
どうしてそんな実験をすることになったか、覚えてない。
しかし、その時、そうすることによって
「盛り上がるような気がした」
それだけだった。
結果として、私は、古文の授業中
「お腹が痛くなったのでトイレに行ってきます」
と教室を後にし、
数分後、「パーマン」の耳の部分の絵だけかかれた紙袋を頭にかぶって登場し
「呼びましたか?」
と聞いておいて、呆然とする「直」をシカトして
「歌います」
机上をぴょんぴょん飛び跳ねて、一番後ろの席で
「パーマン、パーマン、パーマン! 来てよ、パーマン、僕のところへ♪」
と最初から最後まで熱唱し、最後のキメ台詞として
「あ、パーマンとして言わせてもらうけど、水野君が、トイレでうんうん唸っていたよ」
と無理からにアリバイを確保し、パーマンを装った私は教室から逃避行。
数分後、あたかもさきほどまでトイレにいたかのように
● 水で濡れた手をハンケチで拭きながら
教室に帰ってくるという細かい演出までした私の頬を「直」の平手が直撃した。
そのまま私は職員室に連れていかれ、
かつ、同校の英語の教師であった私の父親とともに
「あんたのとこの息子はどうして古文の授業中にパーマンを歌うんだ、全裸で」
と問いただされ、さらに父親からも
「どうしてお前は古文の授業中にパーマンを歌ったんだ、全裸で」
ということを問いただされ、この時最も不幸だったのは、
どうしてそうしたのか、つまり古文の授業中にパーマンを歌った動機そのものが
私には全く分かっていなかった、ということだった。
よって、自然発生的な黙秘権を敢行することになり、その結果、
古文の教師である直にボコられ、
自宅で英語の教師である父親にボコられ、
なんなら母親もそのボコりに参加しようと控え室で待っている、
そんな、ボコりにボコりを重ねるというボコリのジェンガ状態になっていた。
平たく言うと、
後悔していたのです。
どうしてオレは自分の持っている服を全部燃やすことになってしまったのだろう。
私は東急ハンズで、服を燃やすための
「薪」を大量に購入しながら、大きなため息をついた。
薪、です。
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「ダサイクルから抜け出すため」
そんなことをオシャる技術のプレビューで書いた気がする。
しかし、当の記憶ですら「私、そんなこと言いましたっけ?」と曖昧な返事しかしなくなった。
ただ、なんかそういうことしたらなんつーか盛り上がりそうだから。
そんな、プレッシャーにも似たモチベーションが私を東急ハンズまで連れてきていた。
やらなかったら、負けな気がする。
こうして、私は、自分の持っている服を全部燃やすことになった。
「ああ、こんなことして、ブランドの人から怒られはしないだろうか」
ビビリにビビリながらも、
どこで道を間違ったのか、「服燃やし」の一方通行へ私は向かっていた。
私の燃やすことになった服の一覧(右の数字は買ったときのおおよその金額)
『プラダスポーツ』
ダウンジャケット 170000
カバン 58000
スニーカー 50000
Tシャツ 23000
『アルマーニ』
ロングコート 180000
ロングコート 120000
スーツ 170000
マフラー 16000
ストール 16000
『セオリー』
コート 168000
ニット1 24000
ニット2 18000
ニット3 18000
『ヴィトン』
ボストンバック 100000
『グッチ』
ベルト×3 9000
シャツ 30000
『ヒューゴ・ボス』
パンツ 24000
ジーンズ 20000
『ベルサーチ』
皮パン 30000
『フェラガモ』
靴 48000
『その他』
帽子 6800
帽子 3800
パーカー 28800
ジャージ×2 20000
スーツ 60000
スーツ 40000
ジーンズ 18000
皮パン 15000
ニット×10 10000
ネクタイ×10 8000
シャツ×10 8000
スニーカー 8000
パンツ×20 1000
靴下×30 500
洗濯物
あとそれ以外にも色々
購入総額150万円以上である。
私は、クローゼットの中に入っている服を全て、ビニール袋に詰め込んだ。
「ああ、クリーニングからおろしたての、アルマーニが…」 |
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「プラダが…」
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「ゴミ袋に…」 |
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「洗濯物も、「衣」のつくモノ、全て・・・」 |
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「冥土の土産だ」と、全体を小派手にコーディネートする旧・水野。
その発想がすでにオシャレではない。
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こうして。
私の部屋からありとあらゆる衣料が運び出された。
もぬけの空となったクローゼット。
無理やり車につめこんだ衣料の山。もやは夜逃げである。
こうして。
私は同郷の友人U君に車を出してもらい、また、酔っ払って帰ってきた、同居人Sも
「お、面白そうじゃん」
浮かれ気分でなぜか便乗していた。
車を出してくれたU君(左) 同居人S君(右)
さらには、
「服燃やすんだろ? ビデオ回すしかないっしょ」
とこれまた面白好きの抹田優作がビデオ片手にやってきて
つまり、私が生まれ変わるため、という崇高なる儀式は、
一人の眠そうな運転手と二匹のヤジウマを引き連れて、
目的地に向かっていた。
行き先は、決まっていた。
それは・・・
海。
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海しかない、そう決めていた。
確かに、「流れ」でこうなってしまった私だが、
服を全て燃やす、という「イニシエーション(儀式)効果」を期待していたのだ。
儀式効果とは…
少し話は変わるが、私は、2004年の1月にタバコをヤメている。
すると何が起きたか。
タバコをヤメることで、
「吸いたい」
↓
「そういえばタバコヤメたんだ」
↓
「ヤメれたオレってすごくない?」
というセルフイメージアップの倍倍ゲームが起きたのだった。
それと同様、いやそれ以上の可能性を、私はこの「水野Re-Born」の儀式に感じていた。
「服がない」
↓
「そういえば燃やしたんだった」
↓
「海で服を燃やし、朝日を背に生まれ変わりの儀式をしたときのイメージを思い出す」
↓
「オレって、異端児じゃない?」
もっと言おう。
「そういえば服を燃やしたんだった」
↓
「そう。オレは服を海で燃やしたのだ。それは、母なる海を捨て、困難が待ち受ける陸に上がった最初の生物のようにオレは進化した。進化して、ミズノンノとして生まれ変わったのだ!」
こうして私のセルフイメージ(自分盛り上がり感)は軒並み急上昇、ヒットチャート23週連続一位なのである。
分かるだろうか。
分からないかもしれない。
でも、それは私だけがわかればよい話である。
さて。そうこうするうちに、私たちは、幕張の海についた。
服燃やし御一行様。
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海岸に東急ハンズで購入した薪を並べ発火剤に火をつける。
風が強くなかなかに燃えない。
しかも、となりではSが「オレにやらせろ!オレ、燃やすの得意!」と完全に
邪魔をするモードになっている。私はこいつを殴ろうかどうか迷ったが、今は
プライオリティは「燃やし」にある
Sをシカトして火を起こすことに専念した。
新聞紙や細かい薪を利用すると、火がついに燃え始めた。
私は、まず燃えそうな靴下から火にくみ始めた。
すると火が強まり、まさにプチキャンプファイヤーがここにできあがったのだ。
「燃やす、か」
私は、ビニール袋の中から
できるだけ、安かったモノ
できるだけ、想い出のないモノ
を順番に燃やしていった。
しかし、ここで私が忘れていたある事実を発見する。
それは…
「燃やすことは、楽しい」
である。
そう。
最近全然「燃やし」てなかった。
小学校の時などは、ありとあらゆるもの、
草、花、虫、佐藤君の宿題、ゴミ、落ちていた枕、佐藤君の笛…etc
などを燃やしたものだった。
今思うと佐藤君には本当に悪いことをしたが、佐藤君の使っていた「コクヨ」のノートが
他の誰のノートよりも良く燃えた気がした、そんな時代が私にはあった。
こうなってくると、
ヤジウマS君もU君もウキャキャキャとはしゃぎ始め、
なんだか私も楽しくなってきて
「ホイッ!ホイッ!」
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調子に乗って服をサクサク燃やし始めた。
そして40分ほど、火の中に服を投げ入れた後。
ついに、「痛手なきモノ」の燃やしが終了した。
残ったのは、
想い出の品、ブランド物の品、燃やすのがためらわれる品群だった。
さすがに、この状況に追い込まれ、私は躊躇した。
だって、まだ使える。
使わないにしろ、売れる。
燃やしたら、灰じゃん。
そんな当たり前で当たり前な現実に、私はこの時やっと気づいたのだった。
それでも。
目の前のキャンプファイヤーは炎を強くする。しばしば火と空気が擦れあってゴウッと
鳴る音が
「スタンバイ、OKッス!」
と轟いているような気がしてならなかった。
「他に、選択肢は、ない。」
私は、ままよ、とヴィトンのボストンを火の中に投げ入れた。
ぐっ…。
思わず私は唇を噛みしめた。
「高かったのに、な」
とんでもなくあたりまえのことを思った。
そう。こういった非日常で人が考えることはあまりに、シンプルだ。
そんな感慨にふける私のとなりでS君が言った。
「意外と燃えるじゃん」
それを聞いたU君が言った。
「ほんとだ」
私は、ボストンバッグより、こいつらを燃やしたい衝動に、大いに駆られた。
しかし。
冷たいプールも一度入ってしまえば泳ぐのは楽である。
私は、高級品燃やし、という一線を超えると次から次へと火の中に服をくべていった。
プラダのダウンジャケット、ベルサーチの皮パン、グッチのシャツ・・・
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燃える、プラダのダウンジャケット |
そして、
燃やすものも残り少なくなった私は、
「最後の試着」
として、その時までずっと着ていたジョルジオアルマーニのスーツに手をかけた。
このスーツには、他のモノにはない深い思い入れがあったのだ。
私の辛かった時代。
私が走り回った時代。
常に私の側でさせてくれた、いわば
戦友とも呼べる、スーツだったのだ。
ちなみに、その時、私が駆け回っていた戦場とは。
就職戦線――。
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つまり、私のリクルートスーツは、ジョルジオ・アルマーニだったのだ。
そりゃ、落ちるわ。
そりゃ、受けた会社全部2次面接止まりだわ。
学生気分抜けきってないもん。
・・・もっとも、どの会社にももらってもらえなかった私は、大学を卒業後、
「アルマーニどころかスーツカンパニーですら財布と相談」
という極貧生活に突入するのだった。
むしろ、もっと早く燃やすべきだった――。
そう思いながら、学生時代の「甘さ」を存分に吸った
アルマーニのスーツを燃盛る火の中に投げ込んだ。
その時である!
走馬灯のように。
私の脳裏を、
過去の記憶がすさまじいスピードで過ぎ去っていったー。
そう。
私にも、スーツを着て汗をかきながら走り回っていた時代があった。
そんな時代があったんだ。
それが――
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どうして――。
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一体何が――。
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私をこうして、
しまったのだろう。 |
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アルマーニのスーツは…もう取り戻せない時の流れを私に強烈に感じさせた。
気づいたら、
私は燃やせるもの全てを燃やし、一糸纏わぬ姿にになっていた。
過去を脱ぎ捨て
全てを脱ぎ捨てたらおいで。
沢田研二 「ストリッパー」より
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「行こう。」
私は歩き出した。
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生まれ、変わるんだ――。 |
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ずっと、ずっと、遠くへ――。 |
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――。 |
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水野敬也 リボーン! |
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ミズノンノ、生誕! |
こうして――。
ついに、ミズノンノが地上に降り立ったのだった――。
そして――
その時――。
この小さなストーリー、
しかし、同時に、当事者として、
フィクションでない、あまりにリアルなこの人間ドラマを見ていた二人は――。
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爆笑(嘲笑)していた――。 |
頑張れ!ミズノンノ!
旅はまだ始まったばかりだ!
今回の服燃やしの様子は動画でもごらんになれます→こちら |
【読者の皆様、および、ファッション関係でお仕事をされている皆様へ】
今回、「オシャる技術」創刊号を最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
正直なところ「服を燃やす」という行為を見て、気分を悪くされたり、けしからんと思った方もいらっしゃると思います。言い訳はなるたけすまい、という信念がございますが、いま少しだけ私の話を聞いてください。今回の「服を燃やす」という行為は、服そのものやブランドを批判する、ということでは決してありません。また、何かを破壊したいとか、悪意を持ってしたことでもありません。あくまで「生まれ変わる」という象徴として、そしてこれからファッションノウハウを身につけていく道のりをこのメールマガジンを読んでくださる皆様に楽しんでもらうためにしたことです。(本当です)
つまり、ご立腹なされている方たちに私が申し上げたいのは以下の内容です。
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ごめんなさい。 |
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<次回>
全ての衣服を失ったミズノンノが取った起死回生の秘策とは!?
こうご期待!