MIZ'U NON-NO

＜前回のあらすじ＞

今まで持っていた、服、パンツ、靴、鞄、全ての「衣料」を燃やし、生まれ変わったミズノンノ。
「服を捨て、街にでよ！」ミズノンノのボルテージは最高潮に達した。
しかし、喜びも束の間、全く思いもよらなかった障害がミズノンノの前に立ちはだかったのだった！

　　　　　　　　　　

早朝。
幕張の海岸から自宅に舞い戻った私は、早速ＰＣの電源を入れ、

「ネットショッピングって初めてなんだよね♪」

などと呑気にワクワクしていた。

私は、服を燃やした後は、ネットで服を物色しながらある程度動けるようになったら街へ繰り出そうとなんとなく考えていた。

自宅ＰＣの前で全裸でまどろむミズノンノ

しかし。
１時間ほどネットサーフィンをしていたところ、
「服を燃やす」
という儀式が忘れさせていた、ある重大な事実を思い出したのだった。

「あ、今日、編集者と打ち合わせ入ってたわ。」

いかん。
これはマズイぞ。
なぜならネットで買い物したところで、家に届くのは早くても２～３日は掛かろうものだ。
だとするなら、打ち合わせには全裸で行かねばならなくなる。

というか、そもそも全裸で目的地までたどりつけるのだろうか？

普通に、捕まるのではないか。

「嗚呼、一体どうすればいいんだ…」

私は、おもむろに受話器を取った…

「すみません。今日無理です」

動揺していた。
「着ていく服がない」
その状況がこれほど人を不安にさせるものだとは想像していなかった。

しかし、この唐突な申し出に担当の編集者は言った。

「え？　どうしてですか？」

「いや、その、持っている服を全部無くしてしまったので」

「は？」

「とにかく、服がないので、御社に向かうどころか部屋を出ることすらままならないのです」

「ちょっと意味が分からないのですが・・・」

「服を燃やしてしまったのです。ファッションリーダーになるためにリボーンしたのです」

「…とにかく、水野さん・・・」

「ちなみに私は水野ではなくてミズノンノになりました。」

「…」

「もしくは、私の家まで来ていただけると助かるんですけど。ただし、私は全裸での打ち合わせということになりますが…」

「水野さん。打ち合わせ当日にいきなり家に来いって言われても困りますよ。あなたはどれだけ大物作家なんですか？　そんなの適当に服着て来ればいいでしょ」

「いや、適当は無理なんです。私は全裸の状態から一つ一つイケてるアイテムをそろえて」

ガチャ、ツーツーツ。

電話が切れた。

私は、この時、自分の置かれた状況の深刻さをつきつけられることになった。

このままではとんでもないことになる気がする。

どうしようもなくなった私は、同居人のＳ君に

ジャージ

を買ってきてもらうことにした。

家の中では全裸。そしてある程度服がそろうまで、外出時の緊急用として、である。

つまり、スタイリスト１号は、（そんな予定は全くなかったのですが）

同居人のＳ君（かなりバカ）が任命されたわけなのです。
そして、朝１０時に家を出ていったにも関わらず、全然帰って来る兆しのないＳ君を今か今かと待ちわびた私（全裸）ですが、やっとこさ打ち合わせの２時間前に帰ってきたのでありました。

「おい。買ってきたぞ」

おもむろにビニールの袋を開けたＳ君です。
ビニールを閉じている紐を緩めながら、彼はこう言いました。

「パンパカパーン！」

古い。



今どき、パンパカパンはないだろう・・・。
しかし、事実をそのままお伝えするリアルタイムの企画である以上、彼の「パンパカパン」発言は外せなかろうと思い、このオシャる技術には正確に表記させていただいた。

さて。

Ｓ君が購入してきた品は、以下の通りである。

	品名　：　　ジャージ ブランド：　プーマ 購入店：　ＫＡＭＯ 　　　　　　（スポーツ用品店） 値段：１２８００円
	品名：　トランクス ブランド：？ 購入店：１００円ショップ 値段：１００円
	品名：ソックス ブランド：？ 購入店：１００円ショップ 値段：１００円
	品名：健康サンダル ブランド：？ 購入店：１００円ショップ 値段：１００円

私は、Ｓ君が購入してきた商品に愕然としながら、聞きたいことだらけで一杯だった。

しかし、そんな疑問だらけの私をよそにＳ君は袋の奥からあるアイテムを取り出して
こう言った。



「それだけじゃありませんよ、旦那！　なななんと・・・」

「パンパカパーン！」

もういい。

パンパカはいいから、見せろ。早く。


せかした私をたしなめるように、袋から取り出した物（ブツ）はこれだった。





「何？これ。」
私はＳ君に聞いた。

Ｓ君は自慢気に



「スポーツショップのおっさんが、サービスでくれました！」



「・・・」
言葉を失ったボクを前に、
「だって、鞄、燃やしちゃったでしょ。ヴィトンとプラダのバック燃やしちゃったでしょ。ウキャキャ。」笑っていた。

この時だった。

怒髪天をつく勢いで（丸坊主だけど）、私の想いが言葉となり、Ｓ君を襲ったのだった。

「まぁ、ジャージは良しとしよう。地味な感じもするが仕方ない。
　だが、腑に落ちない点がいくつかある。まず、何よりこれだ！」

ダサくない？

いや、いいんだ。
ダサいだけならまだお前に救いはある。

しかし、この商品には致命的な欠陥が！

「なんで、ＭとＬＬ？」

どんな意図が！？

私はＳ君を問いただした。

Ｓ君は言った。

「あ、まちがえた。」

まちがえてんじゃねぇよ！


ルームメイトがよ、２００万円近くの服全部燃やして、全裸になって、風邪引いて頑張ってんだ。それを、なんでまちがえるかな。まちがえちゃうのかな。


どんだけ、この企画軽視だ、お前は！


しかも、それだけじゃない。
それだけじゃないぞ！

問題は、これだ。

「なんだ、清潔感て」

どんだけ無理やりなセールスポイントだ。



「なぜ、だ…」
私は、つかれきった声で、Ｓ君に問うた。


「なぜ、こんな健康サンダルを買ってきた？」

すると、Ｓ君の解答はこうだった。

「これしかなかったの」

靴屋は、靴屋はなぁ・・・

この日本列島に死ぬほどあろうがよ！！！


（怒りを静めるため、ふぅふぅと深呼吸を繰り返すこと１時間）

・・・それでは、スタイリスト１号であるところのＳ君がどうして、プーマのジャージを買い、どんな経緯で９９円ショップでパンツ、靴下、健康サンダルを購入したのか、その話をまとめたい。


以下、Ｓ君の話。

「会社の同僚がニューヨークに転勤になるから、送別会にわたすプレゼントを買いに行ったんだ。で、そいつのプレゼントを東急ハンズで買った。で、東急ハンズを出たとき、 たまたまスポーツ用品店があったから、ついでに、ジャージを買っていくことにした。で、最初どんな色がいいかなと思ったけど、お前はとりあえずこのジャージしか持ってないわけだろう？だから妙に派手な色とか、形の変わったジャージだと大変だろうから、どこでも目立たないような最もオーソドックスな色のジャージを選んだ。それが、このプーマのジャージだった。で、家に帰る途中、100円ショップを見つけたから、ついでにそこで靴下やら靴やらトランクスやらを買ったわけ。で、トランクスは４種類あって、その中で、一つがちょっとやらしい感じだったから、一つは少しマジメな雰囲気のを選んだのよ。こう見えてオレも結構考えてんだよ。 ちなみにトランクスは１００円ショップでは４種類しか置いてなかったんだけどね。ウキャ」




全部、「ついで」じゃねぇか。


私は思った。



それ、完全に「おかん」の買い方じゃん。



それ、「ショッピング」じゃなくて「買い物」じゃん――。


私は、スタイリストの選択を間違えたことにこの時、やっと気づいた。


ま、なにはともあれ。
ジャージを手に入れた私は、全裸から一歩前進したのだった。

ミズノンノはジャージを手に入れた！

ＰＳ．
ちなみに、
今回のジャージは、ドラクエでいうところの、
「布の服」「こんぼう」
のようなもの（初期アイテム）なので、本格的なミズノンノの旅は次号から始まります。

「面倒だ」「時間がない」「服がない」などの理由で、 人に服を買ってくるよう頼んではいけない。（たとえ、恋人であっても） 絶対に、自分で買いに行こう。

次回、
ミズノンノはこのジャージ姿で、六本木ヒルズに乗り込みます。

こうご期待！